僕の好きな作家の景山民夫はスコットランドが好きらしくネッシーを探しに行く男の短編などを書いている。その中でも、特に好きなのが、ロンドンからスコットランドへ向かう夜行列車にあるBARの話だ。バーテンダーにスコットランドへなぜ行くのか尋ねられた主人公が、「ネッシーを探しに行くのさ」と洒落を言うと、気に入れられて、ウイスキーを奢ってもらったという話だ。
もちろん、僕もスコットランド行きの夜行列車に乗る事にした。インドとは次元の違う夜行列車に乗り込む。でも、雰囲気はインドの2等列車のほうが好きだ。
ディナーなども配られ、飛行機のようなサービスを受けられる。ご飯を食べ終わると、電気が消える。就寝前に、僕はBARで一杯ひっかける事にした。
車両を移動していくと、BARというよりは食堂のような車両を発見した。イメージとは少し違うが、ウイスキーはおいてあるようだ。
「グランモーレンジー、ストレート、ハーフ、プリーズ」
景山民夫が好きだった、グランモーレンジーを頼んでみた。結構マイナーな酒かと思いきや、大衆酒だった。日本のBARでも基本的においてあるレベルの有名なスコッチだ。
「あんた、日本人か?。スコットランドへ何しに行くんだ?」
初老のおじいさんが、たずねてきた。僕は内心、ガッツポーズである。この展開を待っていた。
「ネッシーを探しにいくのさ。」
……
結果だけ申し上げれば、盛大にスベり、恥ずかしい思いをした。そして、うるさいアメリカ人家族を尻目に涙目で食堂から退散した。嘘つきやがったな景山民夫…。
朝になれば、肌寒い。ここは、スコットランドはインバーネス、旅の始まりの街。