インドを旅するなら、列車でいくのがいい。夜行列車は旅をするには最も効率的な選択だろう。夜行列車に乗る場合、同じ客席の人とは、寝てる最中の無防備な瞬間を共有することになる訳で、ある程度、信頼関係を築く必要がある。お菓子を交換しあったり、自己紹介をしたり、個人的におすすめなのは、現地のモノを持ち込むことだ。自分達の文化や生活に興味がある外国人を無碍にするひとは少ない。僕の場合は、ヒンドゥー教の”ウパニシャッド経典”を持ち込んだ。相手が仏教徒ならもとより話には困らない、ヒンドゥー教徒なら、経典を見せ勉強中をアピールする。大学では、サンスクリット語を学んでいたと話せば大ウケ間違いなしだった。

 列車は、食べ方もわからない、豆のおやつを分けてもらって食べ方を教わったり、噛み煙草のすい方を教わったり、現地流の生活を身近に学べる良い場所でもある。ただし、日本人からすれば衛生環境が鬼門かもしれない。

 シャワーはないし、トイレは線路に垂れ流し、でも個人的には、インドの列車のトイレが世界で一番好きだ。方式は和式のようなシステムだが、穴があいているだけ、穴の向こう側には線路が見える。まるで、山の崖から立ちションするような爽快感がある。ホームが臭くなるから、駅に止まってる間は、トイレを我慢しなければいけないのが大変だけど。

 扇風機のついた三等列車、背もたれを立てて三段ベッドになる。魔女の宅急便で列車で寝る事に憧れた人もいるのではなかろうか。自分もそんな一人である。列車の音を聴きながら、揺られながら、寝る経験は何事にも変えられない。

 夜、窓をのぞけば、遠くの方に灯りが少し灯っていて、それが流れていくのが見える。あの灯の下で暮らす人とは一生出会うことはない、ただすれ違うだけの人々がたくさんいる。朝になれば、線路沿いに藁葺きの農村がみえる。線路わきには農業用水が貯められていて、そこに朝一番の用を足しに来る農民が山ほどいる。そんな光景が流れていくのを、眺めながら一日が始まる列車旅は面白い。

走行中も、ドアはあいている。埃っぽい風が入ってくる。

 僕らを乗せて、列車はひたすら広大な大地を進んで行く。

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